テヘラン:バザールとか カーペット屋のオヤジ「さあ、ここが私の行きつけのチャイハーネよ」 店にはいるなり、20人くらいの横一列に並んで水パイプ吸ってる野郎どもがいっせいにジロリとこっちをニラム。 俺「・・うおっ! な、なんだテメーラ、や、やんのか」 Zan「・・あの、もすこしアヅマシイ店はないのですか」 オヤジ「あ、ああ、ここには地下もあるから。さ、こっち」 階段を下っていくと、わりと広いスペースが。客が一人いて、ターリー(定食)を食ってる。 オヤジ「オイ、こっちは大事な商談なんだからドケよ。メシなんて食ってんじゃねえバカヤロウ」 顔見知りらしい。ブツブツ言いながらターリー持って階段昇っていく客。 ![]()
俺「んじゃとりあえず、チャイと水タバコやりたいっすねー」 オヤジ「おお、そうですか。ここの水パイプはうまいよ。オレンジフレーバーとアップルフレーバーがあるけど」 俺「あ、そんなんあるんだ。んじゃオレンジで」 オヤジ「(店員に)おい、オレンジフレーバーのひとつ。あとチャイだ」 店員「すいません、今オレンジ切らしてんですけど・・・」 オヤジ「・・な、何? て、手前ら、どこまで俺の商談の邪魔を・・そのくらいどっかで今すぐ買ってコイよバカヤロウ」 俺「あ、アップルでいいですよ」 で、話を商談にもって行きたくてなんかウズウズしているオヤジをワキに、マターリとチャイハーネで時を過ごす俺たち。
オヤジ「それにしてもお若いですねえ。いったい日本ではどういうお仕事を」 どっしよっかなー。正直に言ったらカモられそーだなー。でも身分はっきりしてないとイランでは怪しまれるっていうし。まっいいか。で、職業を正直に言うとなんか感動されて握手求められた。 その後さらにサービス良くなるオヤジ。 オヤジ「ねえ、モスクって興味ありますか」 俺「えっ、そりゃあるけど・・俺天台宗だから。異教徒は入れないんでしょ」 オヤジ「全然ノープロブレム。こっちにホメイニ・モスクあるから行きましょ」 いいのかなあ。
オヤジ「このモスクは1000年前になんとかかんとか・・・」 モスクん中で観光ガイド始めるオヤジ。ちらほらとお祈り真っ最中の人がいる。なんかスゲー失礼なことしてる気もするが、とりあえず写真も撮ってみる(いいのか悪いのかもうわかりません)。こういう場合はお祈りしたほうがいいのか、と一瞬考えたが、コーランに「信じてもいないクセにお祈りだけする不届き者は真っ先にジャハンナムに落とされるであろう(岩波文庫・井筒訳)」と書いてあったのを思い出してヤメた。 でもまあ、これでいつもの俺たちの旅の掟「旅にいったらとりあえず旅先での神にあいさつする」というのは守られたワケだ。これで今までダメだったのはスコットランドの時だけだな。スコットランドの神、ケツの穴小せえぞ。 帰りに御賽銭(イスラムでは喜捨)1000リアルあげてくる。 ![]() で、やっとこさオヤジのカーペット屋についた。こっからホントに商談。これ、インドでもやったが、とりあえず呉服屋の生地選びみたいに、とにかく片っ端から現物を出してくるわけだ。 視覚的芸術センスと織物・工芸技術の知識は俺よりzanの方があるので何買うのかは全部まかせる。みやげ用の一畳くらいのやつを選ぶ。100%シルクの絨毯。値段はさっぱり見当もつかない。高そうだということはわかる。
![]() オヤジ「えーと、これとこれとこれで・・・3点で5000ですな」 俺「安! リアル? トマーン(1トマーン=10リアル 民間での呼称であり「トマーン札」というのはない)?」 オヤジ「・・・御冗談を。ドルですよドル」 俺「ああ、そうだろうなあ・・で、5000ドルったら・・百倍して・・・げっ、五十万円以上? 無理だ無理、そんなに金持ってないよ」 オヤジ「じゃあ、このカーペットもつけますから」 俺「いやいや、そういう問題じゃなくてね・・・この1000ドルのやつ(それでもその中では一番安い)一点だけ買うから。カードでいい?」 オヤジ「・・・イランって、アメリカと国交ないでしょ。だから、クレジットカードって使えないんですよね・・」 俺「・・・んじゃどーすんの?」 オヤジ「前金でいくらか頂いて、残金はその後私の銀行に振り込んで頂く、という形になりますね」 俺「・・・オヤジさん、俺はあなたに言わなければいけないことがある」 オヤジ「何ですか?(ニコニコ)」 俺「実は俺、悪人なんだよ」 オヤジ「(顔がニコニコしたまま硬直し、絶句する。側にいたzanは大爆笑している)・・・あ・・・う・・・そ・・・そんなことはないね。あなたイイヒトね。そんなことしないね。ちゃんと残金振り込んでくれるね。ダイジョブね(泣)」 俺「いや、そっちがそう思うならいいけど・・・あ、300ドルしかねーや」 オヤジ「・・・せめて500ドルくらい欲しいんですが(不安気)」 俺「円なら5万円あるよ」 オヤジ「それって500ドルくらいですか?」 俺「うん。まあ。そんな感じ」 オヤジ「じゃ、それでいいです。じゃあ残りの500ドルはこちらの口座に振り込みで」
その後、オヤジにタクシー呼んでもらったんだが、その間にこっそりとバザールの知人に「オイ、この円ってホントに500ドルくらいの価値あんのかよ」と聞きまくっていたのを見た。
![]() その後タクシーの中で。しかしこれがまだ運転手も車もこの道90年って感じの。 俺「・・・円で買ったから、ちょっとは安くなったかな」 Zan「で、残りの代金振り込むの?」 俺「うーん・・・払わなかったらアラーの呪いがキツそうだしな。シルクの手織カーペットなんて値段つけられないだろーし、イランくらいでしか買えないし。来月の給料はいったら一応払うよ」 運転手「はい、つきましたよ、アザーディ」 俺「ああ、早いなあ・・・って全然違うよ! ここじゃないアザーディだよ」 運転手「・・・住所は? ホテルの住所書いたカードあるじゃろ?」 俺「あ、持って来るの忘れた・・・(地球の歩き方の地図見せながら)チャメラン・ストリートをまっすぐ行って・・・」 運転手「わしゃアルファベットは読めんぞ」
![]() さんざん迷ったあげくやっとアザーディ到着。運転手、いきなりホテルのロビーに怒鳴り込む。 運転手「(フロントに)お前ら、ちゃんとこの坊主どもにホテルの住所カードくらい渡しておけ! バカモンが!」 しかも「案内料」と「ホテルに文句言ってやった代」と合わせて40ドルとられた。
あーすげー疲れた。とりあえすシャワーはいって上がるとロビーから電話。お客様だと言う。誰だ。 とりあえずロビーに行ってみる。 カーペット屋のオヤジ「やー、どうも」 俺「あれ、オヤジさん? どーしました?」 オヤジ「さっき両替商に行ってきたんですけどね。今のレートだと1ドル=133円だって言うじゃないですか。だから、5万円だと500ドルにならないんですよ」 俺「(チッ、気付きやがったか・・細かい奴め・・)あ、そーなんだ。したっけ、あといくら追加すればいいんですか?」 オヤジ「あと100ドルでいいですよ」 俺「んじゃ、100ドルね。しかし、そのためにわざわざホテルまて来たんだ」 オヤジ「はい、確かに100ドル。あ、そうだ、この近くにうまい日本料理屋があるんですよ」 俺「いや、今から外出はもういいよ、疲れたし。だいたい何でイランに来てわざわざ日本料理を・・・」 オヤジ「いやいやいや、ホントにウマいんですって」 俺「んじゃ、今度行ってみるよ。ああ、残りの金はちゃんと払うからさ。アラーに誓って」 オヤジ「(ものすごく安堵した顔になる)・・ああ。わかりました。ではよい旅を」 まあ、それほど大事で、ディスカウント不能な商品てことだろう。本物の証明ってことで。あと「アラーに誓って」って言うのはムスリムにとってハンコやサインと同じくらいの力があるんだなあ。まあマホメットってもと商人だもんなあ。 さて、テレビでも見るか・・・あれ? なんかテレビがヘンだ。宗教の番組しかやってない。BBCも休止。ああ、「安息日」ってヤツか。仕方ない、ファイヤー・エムブレムを・・・ ・・・・・・・ ・・・この「NO DATA」というのは何だ・・・・
恐るべしアラーの警告パニッシュメント。日本に帰ったらちゃんと代金払おう。
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