my LIFE as HERMIT
「インドでわしも考えた変」(その4)

(文中1ルピー=3.5円)

バラナシ:ムスリムタウン
 

 ガンガーの観光ボートを降りる時にボートオーナーのオヤジが握手を求めてきたので、1000ルピーの腹いせに左手で握手をしてみる(オヤジは当然右手を出してきたが)。これはインド人にとってはうんこついた手で握手されてるのと同じことだ。当然ものすごく嫌な顔をされる。でもこれは使えるかも。今度しつこいインド人が来たら、左手で顔をなでまわしてやれ。口の中に指つっこんでみるのもいいな。

 それでも別だんケンカにもならなかったので、河原でチャイを飲む。河原といってもバナレシの河岸は全部コンクリの階段作りで、しかもずーっと店やらゲストハウスやらが密集しており日本の海水浴場状態。自然の川辺など街はずれにいかないとありません。ただしこれは西側の海岸のみ。東側は不浄とされているため、誰も住む人はいない。黄泉の国ということか。橋は町外れにかかっている。


ガンガー東岸

 チャイ売りは推定12〜3歳の女子。ヒマだったのでカメラ向けてみる。


別にそういう趣味(12〜3歳女子)というわけでは余りない

 こんなふうに写真を撮っていると、いきなりその女子の一家と思わしき集団が集結してきた。


おまえら邪魔

 何、あんたらそんなに俺が怪しい奴に見えるワケ? ということではなく、カメラがあると写りたがる国民性なようだ。たぶん。しかしこの家族の写真に写る位置、毎回決まってるんじゃないのか。前の写真からこの写真までの間は2.5秒くらい。…ていうかチミ学校は? とか聞いていくと、この一家は代々観光業で食っていってるため、ヒンドゥー語を知らないらしい。話せるのは英語とイタリア語、それと生まれた場所の方言(方言といってもインドの方言は文法はおろか文字からして全く違う言語なんだが)であるタミール語とサンスクリット語。バナラシの学校教育はヒンディー語なんでダメらしい。でも英語できれば観光で食っていけるからまああえてヒンディー勉強することもないべ、ということみたい。つまりこの一家は「観光業のカースト」なわけですな。

 腹が減ったのでガイドにどっか食堂につれてってもらう。海の家みたいなレストランに入る。チキンマサラとプレーンライスで40ルピー。これはメニューに値段がちゃんと書いてあるので価格交渉しなくてもいいようだ。まあそれでも交渉するのかもしれないが値切る気力なし。ガイドはパニールマサラ(コテージチーズのカレー)とチャパティ。当然このガイドの分も俺が払うんだろうな。
 それと…やっぱりバラナシといえばバン×ラッシー(いけない植物のエキスの入ったラッシー)でしょう! ここにあるかい? と店の人に聞くと、ガイドが
「No」
「あ、やっぱりイリーガルなわけ、それ…」
「いや、バラナシはホーリータウンだからいいんだが、この店にはおいていない」
「でもやっぱそれ飲んでるとポリスに捕まったりするのか?」
「うーん、少なくとも最近は堂々とメニューや店頭に置いてる所はなくなったね。味がだいたいマズイしね、あれ。やる時は吸うのが普通だし。みんな靴に挟んで隠して持って歩いてる。それでも確かにたまにポリスに捕まる時はあるけど、その時はポリスにワイロをやればノー・プロブレムだ。あ、そういえばあんたデリーから来たっていってたな。言っとくけど、デリーでは少なくともこの事についてはポリスにワイロは通じない。年々厳しくなってるんだ。決してデリーではやらないようにな。宿でやってても宿のオヤジに通報されることがある。逮捕されると最低一ヶ月は拘留だ」
「ふーん」

 などとガイドとほのぼのとした会話を楽しんでるうちにカレーが来た。まあまあうまい。まあ俺は日本でインドカレーは食い慣れてるからな。辛さが足りないとすら感じた。で、また食いながらガイドと話。バラナシに伝わる旅行者伝説について。何故か日本人に関係する話が多い。以下の3つの話(最後の話はデリーだが)はどんなインド旅行本にも必ず書いてある。でも、これらはちょっと考えるとどこかヘンだ。検証してみたいと思う。

(1)日本人女性がバラナシのホテルに泊まった所、そのホテルのオーナーと従業員にレイプされた。これはインドの新聞にも載った有名な事件。この事件によってそのホテルは潰れてしまったが、実はその女性はドラッグでイカレてて、レイプされたってのも完全な妄想だった。その日本人女性はその後ネパールのポカラで楽しく暮らしてるという。

検証:これ、10年以上前からバラナシに伝わってる話だけど、筋道の立った妄想のでるドラッグったら覚醒剤? いくらバラナシでも覚醒剤は売ってないぜ。ヘロインやコカインならある(らしい)けど。ドラッグっつーよりヒステリーだったら考えられないこともないが。で、未だにポカラで暮らしてんの? ネパールの観光ビザはそれまでのインド滞在期間も含めて6ヶ月なのに? 不法滞在でないの?

(2)日本人(これがドイツ人であることもある)女性がカメラを盗まれた。女性は当然ポリスに盗難届を出し、まもなく犯人は捕まった。しかし実はそのカメラはその女性が犯人に「売った」ものであり、その女性はさらに保険会社からカメラの盗難保険金を受け取っていたという。その「犯人」はポリスに手酷く拷問され、それを恨みに思ってその女性の首を切って殺してしまった。

検証:ありそうな話だが、盗難保険金ってそんなにすぐに出るもんなのか。そもそもその女性ってのはインドで殺されたのか。これも犯人が拘留されてるうちに滞在期間が6ヶ月越えちまうんじゃないのか。日本(またはドイツ)で殺されたにしても、インド人がいたら目立たないか。ていうか大事件でないのかそれ。そんなニュース少なくとも日本では聞いた記憶ないなあ。

(3)深夜、日本人女性がデリーのコンノートプレイスを歩いていたら、いきなり誰かに目つぶしをかけられた。そのまま誰かに介抱されて車に乗せられていったが、その女性が気がついた頃にはオランダの見せ物小屋にいたという。

検証:ふうん。で、その話は誰から聞いたの?

 どれもインド人が自分の宿に泊まらせようとしたり、商取引にあとからイチャモンをつけないようにと思って考えた作りくさいよなあ。とか話してたらけっこう時間が経っていた。
「ミスター、これから何か予定はあるのか」
「特にないが」
「サリーとか土産にどうだ」
「いいねえ」
「じゃあ、ムスリムタウンに行こう。バラナシの殆ど全ての絹製品はムスリムタウンで作られているんだ」

 バラナシのムスリム(イスラム教徒)タウンってのは知らなかったなあ。バナラシは確かにつヒンドゥーの聖地だが、現在の人口構成はヒンドゥー45%、ムスリム50%、クリスチャン5%なのだそうだ。ムスリムの生活形態は特殊であるため、多くはムスリム同士で集まって生活する。このバラナシのムスリムタウンは、バラナシの西側におよそ50km平方にわたって広がっている。当然、どんなガイドブックにも地図にも「ムスリムタウン」という地名はない。
「でもヒンドゥーとムスリムって仲悪かったんじゃなかったっけ」
「あー、インドとパキスタンとかはな。でも俺は個人的にムスリムの友達がいるんだ」
 ムスリムタウンはほとんどイスラム自治区みたいになっており、ポリスはいない。でもまあムスリムはツーリストに危害を加えることはない、と聞いているのでとりあえず行くことにする。


ムスリムタウン

 特にムスリムタウンとそれ以外の所の境界という所はない。ただなんとなくだんだんとベールやイスラム服を着る人の割合が多くなっていく。この中のムチャクチャ暗くて細い石作りの路地にひきこまれる。
 何かと思ったらこの路地一帯が絹織物工場らしい。部屋の一つ一つには全く光が差さず、20ワットくらいの電球のもとで10人くらいの労働者が働いている。どうやらガイドは「今から紹介する製品は全て手作りである」ということを証明するためにここに俺を連れてきたらしい。5歳くらいの子供も機織ってた。うん、やっぱり子供のうちからこうやって手に職つけさせとかないとな。労働に勝る教育なし。まあ一日20時間くらい労働してるっぽかったが。でも子供の表情は明るい。
 イッツ商談タイム。サンダルを脱いで裸足になって工場の一室にはいる。サリーは買って帰ろうと思っていた。あとせっかくムスリムタウンに来たんだから、あのムスリムの婦人用ペールね。あと下の服。上の写真の右側のおばさんの着てる奴。正式名称をアラビア語で教えてもらったのだが忘れた。というか覚えられない。

 でまあまた例の方式で商談して、サリー2着とベールセット一式で200ドル。これはちゃんとモノを吟味して買ったからなかなか適当な値段なんじゃないかな。オーダーメイドもやってるそうだが、今回はその着る人を連れてきてないのでプレタポルテにする。考えてみたら京都の呉服屋かなんかでも和服買う時はこんななんじゃないだろうか。良く知らんけど。定価がない、という点とか。


工場一階からの図 アパートみたくなってる

 さーて土産も買ったし、満足満足。と思って部屋を出ると、…ん? 何かさらに奥のほうで、ガイドが手招きしている。
「ミスター」
「何だ?」
「プレゼントだ」
 ガイドが俺にこっそり手渡したノートを破った紙に包まれたものを開くと、中には謎の黒いカタマリが。そーか、わざわざポリスのいないムスリムタウンに俺を連れてきたのは、これを渡すためという意味もあったのか。そーいや、さっき俺アレ飲みたいっていってたもんなあ、うふふ。まあこのコトはココではなんなので、またしかるべきページで、いずれ。 

つづく
「インドでわしも考えた変」(その3)

「インドでわしも考えた変」(その2)

「インドでわしも考えた変」(その1)

「隣の印度人変」

「大阪変」「ハッカー変」

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